utama888の物語

ショートショート

待ち合わせ

 ー 丸の内にこれから向かいますので、そのままいてくださると都合がいいです ー

と返事が返って来た。株主総会が終了後、10階フロアーエレベーター内から、今から先方に向かう旨を発信した。

ー 丸の内から神田経由でぶらぶらしながらそちらに向かいます ー

と午後からの訪問を打診した返答が想定外であり、一瞬戸惑った。どうも午後から出先で打合せのようである。

 密集空間の山手線利用による移動に抵抗感を覚え、早めに終了した総会後、好天のオフィス街を散策するのも悪くない、浅草橋のお気に入りのトンカツ屋さんで昼食後に先方にたどり着くのも選択肢としてありかなと考えていた矢先であり、意外であった。

ー じゃ、内緒でデートしましょ ー

と冗談めかすと、

ー そちらに着いたら連絡します ー

 1時間半の新幹線の移動中、通路を挟んで同列5席はわたしひとりの乗客であった。と言うより、同じ12号車に乗り合わせている乗客自体が疎らであった。
 コロナウイルス感染禍の東京への旅は、日経新聞の裏面の連載小説、私の履歴書と絵画書評欄を回遊し、第一面のめぼしい記事を散策した後、2面以降のタイトルに目通し、気になるものは読み込んでいた。
 
 今朝駅のコンコースにあるコンビニで買った新聞に一通り目通した頃、列車は新横浜を通過していた。
 
 私はコンビニでスマホ充電用USBケーブルが手に入るか、Googleマップ

 ー USB コンビニ ー

で検索をかけると、現代の必需品としての認知されているらしく、店の品揃え対象のようでありコンビニで購入できそうであった。
 
 電化製品専門店で買った方が幾分か安く購入できそうだと推測できるので、東京近辺のビックカメラの店舗を思い浮かべた。
 有楽町にある八重洲地下街から東京フォーム経由で直結している店舗が直ぐイメージ出来たが、まさかわざわざスマホ充電用USB購入にために遠出するのは馬鹿げていると思い返して、八重洲駅前のヤマダ電気で一番安いのを購入した。

 ちょっとやぼったい太めのコードであり、東京駅内コンコースにあるコンビニの店先で確認していた、細いコードの自由度の大きいタイプと異なり、充電接続したスマホを胸のポケットに入れると、自由度が損なわれてしまうコードの曲がり方で自己主張するのを感じ舌打ちした。
 コンビニ店頭で見た自由度を兼ね備えたスリムなホワイトケーブルと、手に入れたやぼったい、如何にも通信ケーブルですよと知れるランケーブル色調の充電ケーブルとしての違いを説明書の中に求めた。
 結局、やぼったい代わりに急速充電が可能のようだと納得し、足早に八重洲駅前の横断歩道を渡り、駅内コンコースから丸の内側への通路を歩いていて、手に余りぎみの曲率のカーブを描く胸元のポケットに収まった充電ケーブルと共に、工事中で安全性のみ配慮しましたと言い訳でもしそうな仮設壁面で覆われたトンネルをくぐり抜け、駅反対側へたどり着いた。

 昨晩から旅の友として準備した、スマホ携帯必需品入れ、次縹色小物用ポーチ内に充電ケーブルを探したが、入っていないことにファスナーを降ろしながら気付いた。

 早朝の慌ただしさへの対処として、寝る前にリュックサックに青いポーチを放り込んで納得したのだが、自宅で食卓周りと仕事場としている座椅子まわりにUSBコードを配置するのに、充電ケーブルが不足したので、携帯用ポーチから取り出して配置したことを思い出していた。