utama888の物語

ショートショート

待ち合わせ4

『Mさん、四谷の弁護士のところに出かけてます。』
『終わり聞いてないので、終了するの何時になるのか分からないんです。』

有楽町へ向かう食堂街の店先を私の左手を歩く彼女が言った。

私が彼女の事務所を訪ねる主目的がMとの面会であることを前提とした、先回りして気を回した配慮のことばであった。

『別件で、手分けして弁護士さんと打ち合せしてるんだ、』

『親分の会う人ってわたしの知ってるひと?』
と視線を左に振って問いかけると、

 重そうな白地の手提げバックを左手に持ち、わたしに同調して歩く彼女は、幾分上目遣いに顔を上げて、頷いた。

 互いに視線があったので、改めて彼女の本日の姿を確認した。

 灰色の地に黒格子のブレザーを羽織り、黒のタイトスカートに黒のパンプス、事務所で会うとき装着している黒縁の眼鏡はしておらず、キャリアウーマンの化粧っけの少ない丸顔の柔らかそうな素顔がこちらを見て微笑んでいた。

 メガネをしていない分、黒い立派な眉がこじんまりとまとまった顔のなかに2つのアクセントとして際立った。ルージュは薄く引かれており、白い柔らかそうな肌を背景にして、かたちのよいおちょぼな口がいいわけ程度に自己主張している。

 左手に抱えるように持った書類入れカバンからは、中身が一部外にはみ出しており、午後から面談するためにかき集め入れ込んだのを語っていた。それらは、からだの重心をその一点に集めるように重そうであった。

『あなたの会う人って、わたしの知ってるひと?』
『知らない若い弁護士です。』

『親分とS国に同行したひと?』
『そうです。』と言った彼女は、幾分驚いた表情で視線をわたしに預けて来た。

 昼時なので一緒にランチでもと思って、ガード下の食堂街の前を歩きながら、入る店を品定めしていたのだが、

『待ち合わせにはここがいい』と有楽町駅前の電気専門店を見ながら言った彼女が、
『Mさん、有楽町で降りてくるとしたら、ここですかね?』とJR出入り口を見ていた。

駅手前で右手に折れて、電気専門店と反対側の歩道を歩いていると、

『ここに食事できるとこあるわ!』
『あ、ここがいいわ!』と地下の中華料理店を見ながら目で同意を求めた。

 わたしとしては、軽いランチのつもりであったので、ランチにしては店舗の構えが大きいなと感じたが、主役は彼女なのは間違いないので、階段を先導して降りて、入り口でフロア担当者を目で追い案内を促した。