utama888の物語

ショートショート

待ち合わせ30

繁華街から少し離れたホテル街の1軒に、駐車場変わりで入店した。前払いする際、車を置いたままで食事をして来たい旨を説明して、目的の店までお初天神の前に続く曽根崎通りを私鉄のターミナルを目指して歩いた。 その天神の言われを知っていたようだったが…

待ち合わせ29

遠く水平線に浮かぶ白い氷原を背景にして、オレンジ色に染め抜かれた、極北の海の夕暮れをフェリーボートの舳近くのデッキから眺めていた。太陽は沈まないないままで、しばらくすれば、再び天空に戻り船の周りを旋回して再び降下してゆく、荘厳な自然界の摂…

待ち合わせ28

ユリアとの船内スイートルームでの生活が7日目となった。バスとトイレ以外は終日視界の中にお互いを置いての生活が1週間過ぎた頃から、その唯一の個室使用でバッティングが発生するようになった。はじめは戸惑いがあったが、2度3度と繰り返すうちに、そ…

待ち合わせ27

猟犬が草原の緑のカンバス上に一文字の矢を描いた。牧童が鬣の長いヤクート馬の背に乗り家畜の群れを後方から追い立てている。バイソンの群れの行く手を弧を描いて牽制するハスキー犬と連動して、白い獣がその弦を突き抜け、家畜の群れを次の放牧地へと導い…

待ち合わせ26

エバンキは、シベリアの地域ごとの環境に最適化して、狩猟民であり、遊牧民であり、農耕民と民族様態を変える。そして、それぞれの宗教と神話も変化する。さらに、エバンキの末裔を辿れば、シベリアの大地を彷徨い、点在分化してながら、最終的に朝鮮半島に…

待ち合わせ25

ブロンドの髪を黒いシュシュでアップに巻いて、紺のニットの帽子の中に纏め込んでいた。デニムの短パンに白い下肢が眩しい、黒のタンクトップに上下お揃いのデニムジャケットを羽織り、ゴールドのネックレスに大粒のダイヤがひとつアクセントとなっていた。…

待ち合わせ24

悠久の川の流れと天空の境界線が仄かに赤く染まりどこまでも続いていた。川面はさざ波で朝の気配を反射して薄紅色に染まり、黒々とした影絵の森の中へと続き、いつまでも眠りについている。 クルーズ船、ミハイロフ・スヴェトロフ号が朝靄の中、レナ川右岸の…

待ち合わせ23

レナ川クルーズ船、ミハイロフ・スヴェトロフ号は、ヤクーツクの港を出ると、一旦、川を遡りレンスキエ・ストルブイ自然公園内の石柱群を訪れた後、北極圏に向かって2週間かけて、ほぼ人の手が及んでいないレナ川沿いをクルーズすることになる。船旅の目的…

待ち合わせ22

外苑前から続く銀杏並木は夜明けの冷たい雨に打たれていた。ひとひらふたひらと小糠雨のキャンバスに一筆書きを描いて、風に舞う黒い影が歩道に舞い降りると男の足元で街灯の明かりの中に照らしだされて、黄色い落ち葉に豹変した。 女が職場の同僚とヨーロッ…

待ち合わせ21

ヤクーツク市はレナ川西岸のかつての大河の氾濫原に位置している。意外であるが、レナ川以東カムチャッカ半島までのユーラシア大陸は北米プレートの一部である。川の西側はクラトンを形成し、エニセイ川が西側の境界域辺りになり、南限はバイカル湖付近とな…

待ち合わせ20

法隆寺宝物館は、正面の大きな透明なガラス面を両サイドからライムストーンの壁が支え、その前面に御影石で造作された浅い池が配置されている。建物と一体をなして造られた池の水面に、全面の透明な窓も含め両サイドの壁の姿が、博物館の正面玄関からの左手…

待ち合わせ19

クルーズツアーの出航が日没前の19時なので、ほぼ日中の丸一日ヤクーツクでの時間待ちとなった。男は、クルーズまでは単独で行動することにしていた。念のための調整時間のようなものであったが、取り立てて特別にすることもなく時間を持て余し気味となった…

待ち合わせ18

ホテルの部屋でビールを飲んでいた。女が来るのは17時過ぎの約束なので、15時に駅に着き時間を持て余した。だいたいの見当をつけて、駅前の裏道をこの町の中央に流れる運河を目指して歩いた。ひとの流れは無く通りの店もシャッターを締めて閉店のところが目…

待ち合わせ17

ヤクーツクは夕暮れであった。薄暮の季節であり、時刻は21時を過ぎていた。女は、彼女が引率する数人の旅行者と市内観光のため民族博物館を見学したあと、市内のマーケット巡りをした。そして、宿泊先とは別のホテルで夕食をとり解散した。夕食場所に設定し…

待ち合わせ16

『どうして、彼はブロックチェーンのシステムの説明しないでいいと言うのか?』とユリヤが尋ねた。 彼女が請け負った通訳ビジネスの場に、見知らぬ日本人がいること自体にも違和感を感じていた。 『ブロック・チェーンの会社の紹介者が彼なんです。』と宥め…

待ち合わせ15

温暖化が進むと、北極海及び南極の氷が海に溶け出て海面上昇が起こると言うモデリングをしてみると、以下のような概要となるようだ。 まず、極北の海は海水が大気との温度循環で、大気と接する海面が冷やされることで比重が増し、海中深度2mくらいまでの表…

待ち合わせ 只今準備中かな~

週1話完結のオムニバス形式でショートショートを書いてましたが、暫くお休みします。主人公の設定と脇役が生まれてきたので、ストーリー展開をしてゆくのに、主題はおぼろげながらあるのですが、行ったことないユーラシアを駆けめぐるとなると、下調べしな…

待ち合わせ14

ダスビ・ダーニャなら通じるだろうとの考えにたどり着いた。いろいろ考え倦んで、とりあえず通じるだろう別れの挨拶の単語を、彼女の帰り際に投げかけてみることに心を決めた。 クライアントから要求されたタスクを十分に果たし、自らの個人的なビジネスの延…

待ち合わせ13

フェリーボートの船上から対岸の150mから300mにも及ぶ、巨大な石柱群による景観が延々と繰り広げられた。まるで儀仗兵が整列するような景観を前に乗客達は強い夏の太陽の光の所業に極北の旅行で、あと緯度で4度北上すれば北極圏に入るタイガ地帯ですごしてい…

待ち合わせ12

コツンコツンと床を叩く4ビートの硬質音がフロアー全体に遠く響いていた。しばらくすると、コツコツコツコツと8ビートにアップテンポされ、捕獲行動を伴う女の歩調と同期していった。 空港入国ゲートをくぐってすぐのポールフェンス制限区域越しに、出迎え…

待ち合わせ11

スマホの電源入れるとアクセスポイントを確認するポップアップダイアログが表示された。ウラジオストク空港でスマホをオンにしたときと同じ内容のようであり、ダイアログ表示が直感的に理解できたので、そのままOKを反射的に返していた。 夏季の短い4時間ほ…

待ち合わせ10

白いシーツの上に堅く晃るものがあった。女が抜け出た辺りの枕もと、寝具の上で所在なく輝いていた。 すぐにそれがなんであるのか見当がついた。手に取ると思った通り、彼女がつけていたイアリングの片割れであった。 しかし、よく見れば、装着するためのク…

待ち合わせ9

永久凍土に広がる森は、ほぼ手付かずの原生林であり、保護者のいないはぐれた子供のように、針葉樹たちが肩寄せ合いながら生き抜くために息さえも躊躇いがちな風情で、一年を通して凍った大地の上っ面に、やっとのことで寄生して彼らの子孫を残すべく殖生し…

待ち合わせ8

『こう言う時って、どうされているんですか?』と前菜として出された小籠包に舌鼓を打ったあと、その余韻を口元に讃えながら、上目遣いにわたしに視線を向けて、テーブルの向こうから同伴者が問いかけて来た。 このようなときとは、降って湧いたように急激に…

待ち合わせ7

ウラジオストクに着いたのは、国内空港を出発して3時間ほど陽に向かって飛び進んだ行程後であった。フライトは羽田空港を昼過ぎに離陸後、東京湾を旋回したのち、横田空域を右旋回で高度を上げ、ウラジオストクまでの大圏コースをとるべく、日本アルプスを…

待ち合わせ6

応対に出て来た店の女に案内されたのは、その店の、フロアー中ほど、柱を中心にアレンジされた4卓のテーブルのうちのひとつ、入り口側の4席の方形テーブルであった。 ひとの出入りが近すぎるかなと感じ、奥を見渡しているうちに、同伴者は鏡になった柱を背…

待ち合わせ5

レナの河畔に立ち、冷たい波の彼方に続く極北の海を感じた。シベリアの大地をたゆたう大河のほとりに開けたヤクーツクの郊外、背の低い華奢な針葉樹の森を切り裂くように彼女は流れ、北極海へと続いていた。いにしえ、カタパルトと鉄器で武装した狼の群れは…

待ち合わせ4

『Mさん、四谷の弁護士のところに出かけてます。』 『終わり聞いてないので、終了するの何時になるのか分からないんです。』有楽町へ向かう食堂街の店先を私の左手を歩く彼女が言った。私が彼女の事務所を訪ねる主目的がMとの面会であることを前提とした、…

待ち合わせ3

株主総会会場に着くと、受付で議案委任状の受け渡しを催促され、それに従って総会案内の封書の中から抜き出して手渡しした。 議案自体は前期決算報告と当期計画予算、一部規約改訂の議案で任意特定増資に関する取締役会への委任する議案であった。 総会が行…

待ち合わせ2

『息が上がらないんですね?』と並んで歩く彼女が、感嘆の目の輝きを帯同して、わたしを見上げて言った。『え、』一瞬考えて、 『歩き、早いのかな?』と尋ねる私がいた。 東京駅八重洲南口で待ち合わせて、有楽町で弁護士との打合せが午後からあると聞いて…