utama888の物語

ショートショート

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

待ち合わせ13

フェリーボートの船上から対岸の150mから300mにも及ぶ、巨大な石柱群による景観が延々と繰り広げられた。まるで儀仗兵が整列するような景観を前に乗客達は強い夏の太陽の光の所業に極北の旅行で、あと緯度で4度北上すれば北極圏に入るタイガ地帯ですごしてい…

待ち合わせ12

コツンコツンと床を叩く4ビートの硬質音がフロアー全体に遠く響いていた。しばらくすると、コツコツコツコツと8ビートにアップテンポされ、捕獲行動を伴う女の歩調と同期していった。 空港入国ゲートをくぐってすぐのポールフェンス制限区域越しに、出迎え…

待ち合わせ11

スマホの電源入れるとアクセスポイントを確認するポップアップダイアログが表示された。ウラジオストク空港でスマホをオンにしたときと同じ内容のようであり、ダイアログ表示が直感的に理解できたので、そのままOKを反射的に返していた。 夏季の短い4時間ほ…

待ち合わせ10

白いシーツの上に堅く晃るものがあった。女が抜け出た辺りの枕もと、寝具の上で所在なく輝いていた。 すぐにそれがなんであるのか見当がついた。手に取ると思った通り、彼女がつけていたイアリングの片割れであった。 しかし、よく見れば、装着するためのク…

待ち合わせ9

永久凍土に広がる森は、ほぼ手付かずの原生林であり、保護者のいないはぐれた子供のように、針葉樹たちが肩寄せ合いながら生き抜くために息さえも躊躇いがちな風情で、一年を通して凍った大地の上っ面に、やっとのことで寄生して彼らの子孫を残すべく殖生し…