utama888の物語

ショートショート

待ち合わせ28

 ユリアとの船内スイートルームでの生活が7日目となった。バスとトイレ以外は終日視界の中にお互いを置いての生活が1週間過ぎた頃から、その唯一の個室使用でバッティングが発生するようになった。はじめは戸惑いがあったが、2度3度と繰り返すうちに、それも慣れによる不可侵域へのお互いの出入りを互いに受け入れるようになっていた。

 就寝時に同じベッドで無防備な姿を晒しているのだから、身近にすぐ隣で触れ合うように、息づく寝息を感じ続けるうちに、互いの肌が直接触れ合うこともしばしばとなり、ごく自然に互いを受け入れていった。日中のツアーのイベントの段取りを手伝うようになり、当然のように女の指示するワークをこなしていった。先頭を導くツアーガイドに従って歩く隊列の最後尾に位置取りして、恋人役の女の研ぎ澄まされて、周到に働く姿を雄大なシベリアのパノラマのなかに映しだして、ただ眺めて旅が過ぎていった。

 夕食後、朝食前には食後食前のスポーツのように交わった。それがこの地の普通な習わしなのだと、旅を終えてはじめて知ることとなった。時間が許せばランチのあとも交わった。女は私の一部となり、極北の低い太陽のように沈むことが決してなく、ラプラテの海の底に蠢き、スバーバル諸島あたりから沈み込み北極海底を渦巻くメキシコ湾流ように、深く愛しさは日々増して暖かみを帯び、後戻りが出来ないところまで行き着き、いまにも浮力を得て海面に吹き上がりそうになっていた。

 エバンキの天地の創造神であるジャブダルの叫びが聞こえた。シベリアの大地を滔々と流れ抜き、レナ河口域で浮力をなくして海の底に沈んだはずの声が聞こえた。

 暗闇に街の明かりが目立ちはじめた、川の手前の乗り口から本線に合流する車の赤いテールランプの群れが前面に広がった。淀川を片側4車線の新御堂筋を南へ難波の北の街を目指した。行き付けと言うほどではないが、夕食の店として水槽で泳ぐ鰯を小料理仕立てする店を選んでいた。ツアーガイドで各地を回っていると言えど、新天地であろうと推測しての趣向であった。気丈な女が涙を見せたこともあり、気分転換にも都合がよいだろうとの考えに至ったのだが、ことの収拾をどうすべきか、見当もつかないでいた。