待ち合わせ6
応対に出て来た店の女に案内されたのは、その店の、フロアー中ほど、柱を中心にアレンジされた4卓のテーブルのうちのひとつ、入り口側の4席の方形テーブルであった。
ひとの出入りが近すぎるかなと感じ、奥を見渡しているうちに、同伴者は鏡になった柱を背面にした1脚を私の席にすべく、入り口を背にして席に着いて、わたしに注視した視線を向けることで、着席を促している。
リュックを肩から下ろし、横の空いてる席に置き、ジッパーを引き下げ、布製のタブレットホルダーを取り出して、テーブルの端に置いた。前菜の皿を配置するスペースは確保しておかないとの気配りであった。
席への案内が奥に引っ込むと、白衣の男が注文を取りに来た。そうではなかった、注文を取りに来たのではなく、ランチメニューを案内に来たと言う方が正しい。
いつもの東京遠征時は、慣れ親しんだ博物館内でコンビニのおにぎり2個とお茶ですましており、ご馳走にありつきたいとも思わない、入店する以前からコスパの上がるランチメニューで十分であった。
だが、妙齢の女性同伴の久し振りの食事でもあり、一応メニュー目を通した。
白衣を着た男が、彼女とわたしの中間の中途半端な位置でランチメニューの説明を誰に告げるともなく、主の住まぬ時空に向かって説いた。
『ランチメニューでよろしいですか?』
向い側の彼女を見ていると、メニューの細目を目で追いながら、つぶやきながら読み上げている、
『ワア、いろいろついてる!』
『これでいいですよね?』
と同意を求めてきたので、はしゃぐ彼女を堪能しながら、含み笑いの顔で頷いていた。
ランチメニューを確認した男がテーブルから離れると、入れ替わりにテーブルまで案内してくれたフロア担当の女が前菜を配膳していった。
料理に手をつける前に本日の主目的を済ませてしまおうと、タブレットホルダーのジッパーを下ろし、ホルダー内ポケットから海老ちゃ色の小冊子を取りだし、
『忘れないうちに渡しておきます』口添えて、彼女に手渡した。
『いいんですか?預かって、』
『どこか行かないですか?』と彼女が問いかけてきた。
『いまのところ予定ないので、』と答えながら、出国履歴見られてしまうなと、一瞬考え及んだが、渡すしかないと思い返していた。
食事中、彼女はしきりに別行動をとっているMからのラインでの問い合わせの返事を気にしていた。
Mとの面談のアテンドをしてくれているようだった。
『きょうはこちらに来ないみたいです。』
『よろしく言っといて下さいとのことです。』