utama888の物語

ショートショート

待ち合わせ3

 株主総会会場に着くと、受付で議案委任状の受け渡しを催促され、それに従って総会案内の封書の中から抜き出して手渡しした。

 議案自体は前期決算報告と当期計画予算、一部規約改訂の議案で任意特定増資に関する取締役会への委任する議案であった。

 総会が行われる部屋の入り口に立つと、当日参加者と一斉に目があった、彼らの注視の渦中、入り口で持参していたマスクをコートのポケットから取り出し、両手でバンドひろげ両耳元へ装着した。

 席はテーブルが前例3後列3列 、その前に議長の演壇となっており、コロナウイルス感染禍の株主総会であり、前年度より規模縮小しての開催となっていた。

 わたしはどこに陣取るか一瞬考えあぐねたが、前列の議長演台左手に座ることとし、コートを脱ぎたたむと、議案書を取り出した。

 議案書の中に私の氏名が株主リスト名として載っていた。この会社が未上場時の増資時に株主となった。いわゆるベンチャー企業投資するにはどうすればいいか、その伝手を探していた折り、所属する組織からスピンアウトしたような形で、実質的な運営母体が増資募集をした。個別の創業時の企業に投資するよりリスク分散が可能なことと、創業によるレバレッジの効いたゲインを得られる思惑と、さらにアベノミクスの恩恵からの泡銭が手元にあった。
 迷わず、手元の余裕資金で増資募集に応じた。